ガルル中尉の心臓に直接響いてくるような声と、どうにかしなければならないのに動かない体と、添えられた手と、滑らかな頬。私はどうすることもできなかった。

「君は美しい。」

頬と頬が離れ、ガルル中尉の顔がどんどん迫ってきて、金色の瞳が綺麗だとどこか別の世界のように感じた。腰に添えられた手が、滑るように往復した。






「ガルル中尉ーっ!書類持ってきたっすよー!」






一瞬、時が止まったかと思った。
迫る金色の目が、再び流れ出した時間に応えるようにして遠ざかっていく。非日常が日常に還る感覚。ノックの後に聞こえてきたのは、ガルル小隊突撃兵の幼さを残した声で、それはまるで絶体絶命のピンチを正確な射撃で救ってくれたかのようだったが、彼が礼儀をわきまえた入室をしようとしていたことも救いだった。
私は反射的にソファに座りなおした。

「そんな書類を頼んだ覚えはないが…。」
「やだなあ、ついさっき通信入れたの、ガルル中尉じゃないっすかー!だから俺ダッシュで来たっすよ!」

ガルル中尉がドアに手を開けると、そこには意気揚々と書類を手にするタルル上等兵の姿があった。ガルル中尉は落ち着いた調子で首を傾げる。まるで、何事もありませんでしたとでも言うように。中尉の冷静な姿に、私の頭は使い物にならなくなる。
ああ、もしかしたらさっきの出来事は、夢だろうか。処罰を恐れた私の馬鹿げた妄想なら、丸く収まる。(しかし、だとしたら私はなんという欲求不満だろう。)
タルル上等兵の声が呑気に響いていた。




次第に大きくなる金色の瞳がフラッシュバックする。





押し倒された?

ああ、あれは獲物を狙う獣の目だ。正確な狙撃を私にお見舞いしてくれたのは、他でもないガルル中尉だ。そうだ、彼はスナイパーとして名高い。
男は皆ケモノだ、と遠い昔に聞いた言葉が、薄いもやの中反響してくる。職を失うどころではない。別次元で私は大変なことに巻き込まれようとしているのでは、ないか?

弾かれたように立ち上がった。
早くここを立ち去れ、とどこからともなく警鐘が聞こえてきて、耳を塞ぎたくなるほどの大音声になる。
さもないと私は、私は



、どこへ?」




何故だか、最後に脳裏を過ぎったのはクルルの顔だった。


















スコーピオン