「ププッ、見ちゃったヨ。」
ガルル小隊の帰還を緊張しながら出迎えた私に、橙色の彼は開口一番楽しそうにそう言った。
「…お疲れ様です、トロロ新兵。」
「まさかあのクルル曹長がネェ…、ボク」
「私語は慎みたまえ、トロロ新兵。まだ任務は終了していない。…各員ご苦労であった。次の出動までは暫くある、が、緊急の出動に備え、気を引き締めておくように。以上、解散っ!」

母船から降りたトロロは自分専用のコンピュータを今にも開こうとしながら、すぐに私に駆け寄って来た。最後に降りてきたガルルは軍人らしからぬ行動を取るトロロを見るや否や一喝し、トロロはあからさまに顔をしかめながらも渋々その声に従った。ああ、恐れていた日がやって来た、と、私は今すぐにでも消えてしまいたい衝動に駆られていた。軍の個人回線に、しかも中尉クラスの回線に、ハッキングをかけることが軽くは無い罪だということは、軍属になって日が浅い私にだって分かることで、わざわざ昨日の夜に軍規を確認したのだから、間違いはない。この後すぐ、私はきっとガルル中尉に呼びつけられるのだ。そして、言い渡される処分と言葉とは、今でも簡単に想像がつく。私はなんという失態を犯したのだろう。よりによって、あのクルル曹長の犯罪の片棒を担ぐことになるなんて!
素早く、かつ正確な指示を与えるガルル中尉と、それをお行儀良く並んで聞く隊員を横目に、私は覚悟というやつを決めていた。

はこの後私の部屋に来るように。」

恐れていた展開の幕開けには相応しすぎる一言だった。どうにかこうにか返事を絞り出して、手にしていた分厚いファイルを抱きしめる。ガルル中尉の後姿を見送りながら、私は心の中で密かにクルルに悪態をついた。何が、「この回線を使うことに意味がある」だ?私を退職に追い込もうとでも言うのか。あの日、逃げた私への報復としては、いかにも的を得て効果的な嫌がらせである。思わず零れる溜息は、ばっちりトロロに聞かれていたようで、他の隊員が散り散りになっていく中、彼は私のすぐ隣でうきうきをコンピュータを開いた。

「ホーラ、ばっちり録画済み!」

ああ、トロロの手に渡ったら、この映像がどこまで広がるのか分かったものではない。ネットワークに流出した情報の行く末と被害者の末路はよく知っている。正当な処分に上乗せされた仕打ちは、職を失うよりも質の悪いものに思えた。
私は、残酷で無邪気なトロロの手にあるディスプレイに、覚悟を決めて視線を向ける。


『誰がてめぇらなんかに見せるってんだ。バァァァカ。』


「な、な、な、なにィ!?」

意を決して覗き込んだディスプレイに映っていたのは思っていた光景ではなかった。聞こえてきたのは人を小馬鹿にするような笑い声、そして映し出されていたのは

「クルル!!」

黄色の渦巻き、彼のトレードマークがこれでもかとばかりに画面に映し出されていた。





















ヒーローは遅刻が世の常