「クルル曹長、ずいぶんとお忙しいようだな。」
「ガ、ガルル中尉…!」

よく響く声がラボに木霊したのと、俺が振り向いたのと、が恐れ慄いた声を上げたのはほぼ同時だった。ああ、来やがったか。俺は後手にとの回線を切ると、ガルル中尉に正面から向き合った。俺は背の高い椅子に踏ん反り返っているので、ガルル中尉を見下ろす形になる。

「逆探知させて貰った。発信者不明の回線が私の部屋に、しかも私の留守に、繋がっていると知らせが入ったものでね。」
「対応が早いっすねぇ…。しかもワザワザその正体不明の発信者のところまで、直々に乗り込んでくるなんてな。」
「蟻の子一匹通さないと評判の軍の回線に侵入して来たアンノウン…技術を買われれば、無名のハッカーも次の日から軍属だ。君も覚えが無い訳ではあるまい。まあ、どんな奴かと来てみれば、君とはね。」

君らしいといえば君らしい。
呆れを滲ませながらも、ガルルはある種感心したように、一人合点がいったようにそう言うと、俺に律儀に敬礼を向けた。決まりという奴は嫌いだった。特に、自分よりも立場が上だとか、そういう類のことは特に嫌いだった。だが、それを十分に知りながらも、俺は軍に入った。軍属になるとはそういうことで、だからこういう時に敬礼を返さなければならないことも、仕方の無いことなのだ。俺はだらりと敬礼を返した。

「で、罰でも貰えるんすか。」

俺が手を頭の後ろに組んでそう言うと、ガルルはさも愉快そうに笑い声を漏らして、馬鹿にされたように感じて俺は眉間の皺を深くする。笑い声さえも上品で折り目正しい紫の上司は、顎に手を遣るとやはり楽しそうにこう言った。

「いや、スカウトの件もあるが、それより私の秘書に不躾にも手を伸ばすのはどんな輩だろうと、見に来たのだ。回線をハッキングするのなら、もっと効果的な方法が他に幾らでもある。例えば私より上層部の回線に進入するとかな。しかし、アンノウンは私の回線を選んだ。付け加えて言えば、私の出動を見計らったように。…危険の実は、芽のうちに摘み取るのが最善だ。そして、彼女は守られるべき存在だと、そうは思わんかね?」

咎めるでもなく、ガルルはいかにも興味深いといったように俺を眺めて、そう言った。





















お戯れを