あなたが過去の人になったからこそ私はこうしていられるのだ、と何でもないようには答えた。「過去の人」と形容されたことに、俺は思わず眉を顰める。それは正しい言葉ではあった、が、その言葉で呼ばれることを望んでいなかったからだ。

「聞いたぜぇ、ガルル中尉お付きの秘書になったんだってな。」
「あなたには、もう関係の無いことでしょう。」
「クックー!つれないねぇ…。俺が直々に回線を繋いでやってんのに。」
「繋ぐも何も、私は仕事中で、この回線はガルル中尉の、よ?」

正気なの?
ひとつひとつ言葉を区切って、ご丁寧には俺に諭した。大袈裟に溜息を漏らして、頬杖をつく。
俺はそんなに苛立ちを覚えた。だがその反面、構うことなどしてやるか、とでもいうような強気のの態度に俺の心はますますに惹かれていく。そして俺は上機嫌に笑った。は怪訝そうに首を傾げて、俺には見覚えのないイヤリングをきらりと光に反射させて見せた。

「相変わらずイカれてるのね。」
「ガルル小隊は現在遥か南の銀河系に出動中…、暫くそこには帰ってこねぇだろ。」
「そうね、でも。」

は少し思案するように画面の外に視線を外す。答えを待ちながら、俺は俺を突き放そうとするが、決して回線を無視することも一方的に回線を切ることもしない理由を考えながら、思いつくものをひとつひとつ吟味していった。綺麗にラッピングされた箱の中に必ずしも素晴らしいプレゼントが入っているとは限らなくて、何でもないようなダンボール箱の中にこそ、今か今かと息を潜めて、世界を変えるような代物が外の様子を伺っていることが、あるのかもしれない。は何時だって中途半端に事を終わらせることが嫌いで、あの日も全力疾走で俺の前から姿を消した。俺はそれを敢えて追いはしなかった。

「例えば私の個人回線、あなたがわざわざ星間通信機能を盛り込んだコンピュータが、家にあるわ。」
「そんなつまんねぇこと、俺がするとでも思うのかぁ?答えはノーだ。ガルル中尉の回線だから、この交信には意味があるんろが。」

背もたれに踏ん反り返って再び笑うと、は頬杖を一度止めて、しかしまた今度は反対側の手で頬を支えて、深く息を吐いた。もうあなたの冗談には付き合ってられないのよ。瞳がそう語っている。

「俺がこんなに行動で示してやってんだ。アンタはそんなに馬鹿じゃねぇだろ?」
「理解するのと応えるのはまるで違う。私、初めに言ったでしょう、あなたはもう過去だって。」
「過去、ねぇ…。」

明らかに不機嫌を増す表情を横目に、俺はまた気分が良くなって笑った。

「あなたね、」

頬を支えていた手で、は机を叩く。ぱん、と小気味良い音が響いて、は次の言葉を用意して口を開いた。が、あんぐりと開いた口はそのままに、声は出て来なかった。怒りの表情が驚きに変わっていく。その視線は、俺の遥か後ろに向いていた。



















諦めて下さい