ざらついた指先が頬を掠める度に呼吸の仕方を忘れてしまいそうになる。
吸い込んだ空気は酸素を抽出されることなく、そのまま吐き出される。あと、ほんの少しの震えさえあれば、声となってしまいそうな危うさをはらんで。もう、触らないでくれ、と。目の前から消えてくれ、と声にならない声で、懇願する。
どうして恐れる?
うんざりするほど煙を吸い込んだであろう喉は、その割には綺麗に掠れたハスキーボイスを響かせた。
さして表情を変えることもなく、赤木しげるはを見下ろした。白髪が、鼻先を擦った。思わず顔を背ける。それを見た赤木しげるは、心底可笑しそうに声を漏らして笑った。
さあ、何も怖いことなどない。ただお前は、俺に委ねさえすればいいんだ。
挑発するように、顎を骨の縁にそって撫で上げた指が、頤を押し上げた。
昨日も同じだった。は回想する。一昨日も同じで、無論、出会った日も同じだった。いつも同じ、望まない行為を、さもこちらが望んでいるものを与えているのだと言わんばかりに、組み敷かれる。その繰り返し。私が何をしたと言うのだ。委ねるものなど、とうに失くしてしまっている。ただ、時間が過ぎ去るのを、シーツを握りしめて待つだけだ。白いジャケットが、ベッドの直ぐ脇に脱ぎ捨てられている。強い、女物の香水の香りが、噎せ返るほど満ちている。一体何人の女に同じ思いを強いれば気が済むのだろう。―否、望んで抱かれる女もいるのかもしれないが。
さて。今日はどんな鳴き声を聞かせてくれる?
タバコも香水も反吐が出るほど大嫌いなのだ。






無垢なリビドー