気付いた時にはもう遅い。
起こってしまった事実は、それを認識する時には、もはや確定事項になっているから。防衛には、物事が発生する前に危険を察知、瞬発的に反応を起こすことが大切。
「………」
見慣れない天井。いや、見慣れた天井。
薄暗さは、閉鎖的空間とモニターから発生する光の調和のため。
「お目覚めかい?ちゃん。」
気付いた時には、もう遅い。自然と溜息が漏れた。再び目を閉じる。
「瞬発力…か。」
「んあ?」
「なんでもない。」
もう一度眠ってしまいたかった。抗うことは、無意味だ。抗う理由もない。
「お前もつまんねー奴だな、ちったあ日向夏美でも見習ったらどうだ?」
するり、と、クルルが歩み寄って来る気配を感じた。
「日向夏美を連れて来れば万事解決よ。」
手の甲を額にのせた。日向夏美、その名前の通り、青空がよく似合う子。
「オレ様をそんなに燃えさせてーの?」
クルルが愉快そうに笑う声が聞こえた。
「瞬発力?そんなモン幾ら身につけようと、オレ様には敵わねぇよ…戦略も行動力も技術力も知力も、比較対象になんねーの、分かってんだろ?」
ああ、そんなことは百も承知。やはり、抵抗は―
「抵抗は無意味だぜぇ。」
ゆっくりと目を開く。
広がるのは無機質な天井、満足げな彼。
「―逃げんな。」
薄暗い部屋。
囚人服で歌いましょ