引っ切り無しに電子音が流れ続ける通信機、悲鳴、鳴り止まないストレッチャーの車が地面とぶつかり合う音、うめき声、切迫した呼名、血、血、血―


、今もう一人来るわ!」


複数の隊を集結させての出動に、この結末を予想できなかったことが悔やまれて仕方がない。作戦開始から、一体どれだけの時間が過ぎたというのだ。いちいち時計の針を確認せずとも、今が、砲撃を始めた時刻から1時間と経っていないことは明白である。

また、どこかから―そう遠くはない場所だ―大きな爆発音がこだまし、鼓膜を震わせる。

無傷の兵あるいは軽傷者によって負傷者の一団が担ぎ込まれて来たのは、最初の砲撃による地鳴りがこちらまで届いて少し経った頃だった。重傷者の傷は、相手からの発砲や襲撃によるものとは考えられなかった。―なにせ、ひどい有様なのだ。この星の住人は、他人と争い、相手を傷つける能力に長けているとは言えないのだ。(それはあくまで、ケロン軍の事前調査による結論付けではあるが、着陸寸前に垣間見ることが出来た地上の様子を考慮しても、推察はほぼ正しいと言えるだろう。どう贔屓目に見ても、発展した国だとは言えない。)つまり、これが意味するのは、傷ついたケロン兵たちは、ケロン軍からの銃弾によって―味方からの攻撃で、負傷したということだ。


傷を負う者が一人もいない戦場などありえないことは百も、千も承知である。
しかし、仲間によってこれだけの数の兵士が傷を負う戦争は、見たことも聞いたこともなかった。


「プルル、こっちに500t輸血。」

「分かったわ。」


考えている余裕はない。ただただ、目前の怪我人の救護に手を尽くすだけだ。

軍の医者になる、それは言い換えれば、戦場で人を救うということ。
一見矛盾しているような錯覚に陥る自分の存在に、首を傾げたくなる。
私は争いを肯定しているようで、否定しているかのようにも映るのだ。

―ああ、何を迷っているというのだ。
すべて、自分で決めたことじゃないか!


「―、やるしかないわよ。」


見透かしたようなプルルの言葉が、降ってくる。
制御しきれない感情が溢れだしては砂地が露わになるまで引いていくこころのなか、ひとり安全な司令室でぬくぬくとふんぞり返っているであろうクルル少佐の姿が、ノイズ交じりに浮かび上がった。










砲撃開始からわずか2時間、ケロン軍はこの星のすべてを制圧した。











「―少佐!!」


司令室のドアが勢いよく開かれる。
振り向く必要は無かった。モニターを見るまでもない。
人を嘲り、叱咤し、叩き起こす声だ。


「今日の作戦は一体何だったんですか?!」


足音が、ちょうど背後まで来て聞こえなくなる。どんなに急いで来たのだろう、忙しない呼吸音が鼓膜をくすぐる。それでも、顔を向けはしない。クルルは止め処なくキーを叩き、するとそれに呼応するようにモニターの各所が変化していった。どう対応したものか。クルルは考えあぐねる。


「―少佐っ!」


切迫した声。
強い力が、肩を掴んでクルルの体の向きを変えた。


「…イイ面してんじゃねーか、サンよお。」


今にもこぼれ落ちそうな涙が、瞳に満ちている。白い頬には、その白さとは対照的に黒ずんだ赤い印が幾筋も浮かんでいた。―もちろん本人の血液ではないだろう。の手のひらから、クルルの肩口も赤く染まる。

出会ってから昨日までの2日間、は気丈そのものであった。
今、その全てが、目の前で脆くも崩れ去っているのだ。

クルルは顔をしかめるどころか、満足そうに一声笑った。