薬の、つんとしたにおい。
瞼を開く。


、起きてる?
左側から甲高い声が聞こえる。わたしは生返事をして、寝返りをうった。騒々しいのは、もう支度をし始めるべき時間だからだろう。しかし、朝のベッドはなんといっても気持ちがいいのだ。おいでおいでと、睡魔がわたしを誘う。手を伸ばして、手をつないで、にぎりしめて。睡魔はいつも意地悪だ。


黒いローブ。背中。後ろ姿。


刹那、火花が散る。わたしは悲しかった。睡魔が、わたしは彼を信頼していたのに、魔法を使ったからだ。床まで届く長いローブから覗いた杖先、そこから火花が流れ出たのを、わたしは確かに見た。彼もまた、悲しそうだった。橙色の光の中で、黒髪が乱れた。勢いよく振り向いた彼は、


ってば!1時間目、魔法薬学!遅れたらスネイプに減点されるよ!

スネイプ?


瞼を開いた。
黒髪、引きずるほど長いローブ、覗く杖先、薬のかおり。
スネイプの幻が深紅のカーテンに映り込んで、さらさらと消えた。






たそがれ