眠るに口づける。
紅く熟れた唇は、確かな熱を帯びて、いかにも甘そうだ。わずかにゆれる睫毛が白い肌に映えていた。
ゆっくりと手を伸ばす、すんでのところで躊躇う。?
目覚めたら、もし目覚めてしまったら?
部屋は静寂そのものだ。隣と、そのまた向こうで眠っているはずの吐息は聞こえてこない。じっと耳を澄ましてみても、聞こえてくるものは静寂ただひとつであった。
杖を撫でる、魔法は確実だ。
確信を持っている、のに胸が高鳴る。
これは、危険を恐れる鼓動ではない、のであろうか。
自嘲が漏れた。
大丈夫だ、魔法は完璧だ。
もちろん睡眠薬も、
しかし、触れることを躊躇う。
ただの表情を視線でなぞる。ただそれだけ。
ああ、このまま地下室へ連れ込めたら、閉じ込められたら、どんなにか良いだろう。
どんなにか、良いだろう。
あるのは、ただ作り物の静けさだけ。
眠り姫は、けして起きることがない。
仕込まれた薬が、それはそれは強力だったから、だ。
かぼちゃジュースは美味しかっただろうか―
場違いな問い掛けが浮かんで消えた。
頬も寄せず、まっすぐに口づけた。
即座に姿くらましできるよう、杖をしっかりとにぎりしめて。
少女と蝙蝠